【映画】ケス/人の自由と尊厳を一羽のタカを通じて描いた名作

イギリスの社会派監督、ケン・ローチの3作目。大好きな監督の一人です。

ケン・ローチの作品の何が良いって、いつもエンディングが最高なんですよ。

割り切れないリアルのキツさはあるんですけど、「人生も悪くないな」と思える温かさやユーモアが溢れていて、突き放すでもなく、包み込むでもなく、いつでも客観的。

その辺のバランス感覚がすごい信頼できる監督です。

見終わった後の切なさと温かさが入り混じった奇妙な感覚は、ケン・ローチならでは。

おすすめポイント

ケン・ローチの映画は、一貫して「人間の自由と尊厳」を描くことをテーマにしています。

「ケス」とは、物語に出てくるタカ(正確には隼らしい)の名前です。

主人公のビリー少年の救いのない生活とケスの美しさのコントラストから、

人の尊厳とは、自由とは何なんだろうか?

それを守るためには何ができるんだろうか?

ってなことを考えさせられる映画です。

こういう考えさせられる系の重たい映画は好き嫌いが分かれるところですが、ケン・ローチの映画は見やすい方なのでオススメしやすいですね。

あらすじ(ネタバレ)

街でも有名な暴力兄貴と、子供に無関心な母親、教師は自分の見栄と都合ばかりで、クラスはどうしようもないヤツの吹き溜まり。

煽り合い、ののしり合い、蹴落とし合い。金もなければ希望もない。

そんな恵まれない不遇の環境に抗う心の綺麗な主人公の少年は……というよくある構図ではなく、どうやら少年もまた、どうしようもない。

親にツバ吐き、教師にツバ吐き、嘘はつくし、盗みはするし、弱いものいじめもする。そんなどうしようもない生活の中で、少年はある時、近くの森でタカの巣を見つけて、ヒナをさらってきます。

もともと動物が好きで、時々こうして動物を飼って世話をしているよう。

少年は、その鷹にケスと名付け、本屋で鷹の調教に関する本を盗んできて、さっそく訓練を始めます。

“ほっこりする”って言うんですかね。

目を逸らしたくなるような現実の日々の物語は、鷹のケスに関わる時だけ、柔らかな暖かさをまとい始めます。

ケスの話をする少年は楽しげで誇らしげ。ケスの話を聞くクラスメイトは、目を丸くして聞き入って、ある教師はケスを通じて少年と心を通わせます。

「牛肉を」

「あの鳥の餌か?」

「そう」

「ただで良い。切れ端だ。」

「ありがとう!」

そんなやり取りが、たまらなくほっこりするんですよ。

ケスは、少年にとって、生活者にとって、僕ら観客にとっての、文字通り「希望の光」になるわけです。

しかし、現実の厳しさは、その輝きをも容赦なく呑み込んでいきます。

感想

この映画で一番印象に残ったシーンは、学校の教師と少年の2人が、ケスの小屋で会話をするシーンでした。

「尊厳を感じさせられる。今だって、小声で話してるしね。」

「飼いならせやしない。僕でさえ気にかけない。獰猛で超然とした鳥なんだ。今だって、姿を見させてもらっている。」

ケスは間違いなくこの映画の希望の光であり、ローチが描こうとした“人間の自由と尊厳”の象徴です。

少年ビリーにとって尊く、厳かな存在であるはずのケスは、兄貴のジャドの腹いせに殺されてしまいました。

でも、事の発端はビリーがジャドの掛け金をくすねたせいで、それもまた人の尊厳を踏みにじる卑劣な行為なんですよね。

相手がどれだけ悪いヤツでも、盗みは盗みです。

今の生活を続けていると、ビリーはこれから先、もっとたくさんの、もっと大きなものを失っていくんだろうと思うと、いやぁ……。夢も希望もあったもんじゃないですね。

そんな救いようのない物語に希望の光が感じられるのは、やっぱりケスの存在です。

ケスは、他の誰でもない、“観客にとっての希望”でもあります。

ケスが殺される辛さを、たくさんの人が観て、感じている。

まさか、兄貴のジャドに共感して「ざまぁみろ」と思う人はいないわけですよ。

しかし、僕らは度々、ジャドと同じようなことを思うし、してしまったりします。

怒りで我を失ってやりすぎてしまったり、後に引けなくなって言い訳をしてしまったり。

“尊厳を踏みにじられた”と感じて、苦々しい思いをすることだってままあります。

そういった個々の複雑な問題が、“ケス”という象徴を重ねることですごい分かりやすくなる。

答えを一方的なメッセージに乗せて伝えるのではなく、飽くまで客観的な目線で、“自由と尊厳”という曖昧なテーマに“自分なりの答え”を出せるだけの材料だけをそっと差し出されているような感じ。

この辺が、ケン・ローチの映画が“温かいまなざしで寄り添うように”と表現される理由なんでしょう。

「人の自由と尊厳」の大切さを伝える一方で、僕ら観客の自由と尊厳を守ろうとする姿勢が、彼の映画の不思議な暖かさに繋がっているのかなーと思います。

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